玲子は、横領罪について記載していたことへの衝撃からようやく立ち直り、再び答案に向き合った。
「次は甲の罪責ね・・・って」
「甲!」
・・・センスないわねーと玲子は思った。
丙をどうするつもりかしら。丙の行為も甲に負わせるんでしょ、それならまず丙について書かないとダメじゃない・・・
そう、玲子は思った。
しかし、紅茶の力は偉大である。
このぐらいではもう動じないのだ。
「うわーまた強盗予備罪・・・もういいわよこの犯罪は」
とか
「住居侵入ももういいから・・・」
とか言いながら、甲のところを読み終える。
読み終える・・・
「え、読み終わったんだけど・・・甲・・・」
「ふざけんなー丙はどこ行った!強盗はどこ行った!」
いくら眺めても、そんな記載はないのである。
私、違う問題文を見てるのかしら・・・
そう考えたくなる玲子であった。
(丙は、甲が予定しない登場人物である。その丙の行為を甲に帰責させない場合、どこまでが甲の罪責になるのかは難しい問題となる。
その点が、きれいに抜けているのだった)
その後、丙についての記載を見るが、意外ときちんとかけており、承継的共同正犯についてもふれてある。
また、丁についても悪くない。ちょっと読みにくいけど、及第点。
「なんだ、これだけ興奮したけど、意外とちゃんと書いてるじゃない」
そう思い、ちょっとだけコメントで誉めたのだった。
コメントを書き終わった玲子は、ふと考えた。
甲の罪責ってどうなるのかしら。一般的に考えてみると・・・
こういう場合、甲の罪責ってどうなるのかしら。
甲と乙が共同正犯、乙と丙も共同正犯、だから甲と丙も共同正犯?
いや、理屈はそうじゃない・・・
甲はきっと乙としか共同正犯にならないわ。
じゃあ丙はどう扱うか。これは、乙の行為が拡張されたとみるんじゃないかしら。いわば乙2ね。
乙は共同正犯として、丙の行為にまで責任を負う。つまり乙の責任は拡大したのね。そして、そのような拡大した乙の行為について、共謀により甲も責任を負うのなら、当然、甲は丙の行為にまで責任を負う。
乙=甲(共同正犯関係)
というのが基本で
{(乙+丙)=乙}=甲(拡大した乙と甲が共同正犯関係)
ということになるんじゃないかしら。
まあ、こんなこと考えても仕方ないけど、共謀したわけでもない丙の行為を甲に責任取らせようと思ったら、それなりに慎重にやらないと、甲に失礼よね。