平成21年度旧司法試験刑法2
答案
第1 甲
1 刑法159条における偽造とは、文書成立の真正性を偽る行為、つまり名義人と作成者の同一性を偽ることをいう。名義人は一般人から見てその文書の作成主体とみうるもの、作成者は実際に作成したものである。
本件では、名義人は有効なIDPの発行権限のあるAITであり、作成者は有効なIDPの発行権限がないAITであるから、偽造に当たる。
2 乙に対し、AITが発行する有効なIDPを20万円で買うことができると虚偽の事実を告げて、乙にクレジット契約を締結させて、現金20万円をAに振り込ませた行為は、乙に対する詐欺罪に当たる。
3 また2の行為は、Aの担当者に立替金支払義務があると誤信させて20万円を振り込ませているので、Aに対する詐欺罪が成立する。
なお、乙には弁済意思があり、現に弁済を行っている。
しかし、Aの約款で仮想契約が禁じられており、仮想契約であることを知っていればAは契約しなかったと考えられる以上、仮想契約かどうかは重要な取引上の事実であり欺罔行為に当たる。
また、上記の欺罔により振り込んだこと自体が損害といえるため、弁済意思や弁済の事実は損害の発生を妨げない。
第2 乙
上記のとおり、Aに対する詐欺罪が成立し、甲と共同正犯となる。
乙について話すことがなくなってしまったわね・・・
三角詐欺の話とかもあるのかもしれないけれど、特に書かなくても十分処理できるのよね。私文書偽造は薄い内容になったけど、骨組みはまあこんな感じでしょ。あとは、名義人と作成者を定義する理由を書ければいいんだけど、これは難しいし、いろいろあるから、割愛。
(といいつつ、試案としては、
「文書偽造の保護法益は文書の社会的信用である。そして、その社会的信用の対象は、その文書が名義人によって作成されたことである。したがって「名義人」とは、一般人からみてその文書を作成したと考えられる者であり、その文書の体裁、性質等を総合して判断されるべきである。一方、作成者とは、その文書を実際に作成したものである」
という規範を参考までに。)