「さて、では気を取り直して、読みましょうかね」
ひとりごとを言って読み進める。
「なになに、
①財布を抜き取った行為について、まず窃盗罪の共謀共同正犯が成立しないか
②何かよくわからないあてはめをして、成立『しうる』という結論
③しかし、不法領得の意思を欠くのではないか
④不法領得の意思を欠く
⑤だから窃盗罪は成立しない」
・・・
ああ、もう嫌になるわね。
玲子は言葉を出す元気もなく、思った。
「窃盗罪が成立しないのなら、なんのために共謀共同正犯のあてはめをしたのよ、わけわかんない」
「もういいわ、次に行きましょう」
答案には、甲の詐欺罪のことが書かれていたが、なぜか、10万円の時計と50万円の時計について、書き分けられていなかった。
何度見ても、かき分けられていなかった。
「救いようがないわね」
「問題文で似たような二つのものがあれば、必ず書き分けなさいって教わらなかったのかしら」
「いうなればラブレターを二人に出すのに、全く同じ文章を書くようなものかしら。
一方に合わせれば他方に合わないし、両方のことをごちゃまぜにすると、誰に書いているのかわからなくなるじゃない・・・」
このたとえはちょっと無理があったかなあ、と思いながら、先に進む。
そして答案を最後まで読み終わった。
「・・・」
占有離脱物横領は?死者の占有は?共謀の範囲は?
どこにもないんだけど・・・
玲子は呆然としながら答案を置いた。
後輩には、
「占有離脱物横領、死者の占有、共謀の範囲等を書いていないのは致命的である」
と書き送った。