「さて、では気を取り直して読みましょうかね」
そういって読み始めた。
「行為の1個性!なかなかいいこと書いてるじゃない」
玲子はようやくほめるところが見つかってちょっとほっとした。
「でもねえ、そりゃあ確かに甲と乙は、①体当たりのあと、②石で殴ってるから、この二つの行為が刑法的に1つかどうかは問題になるわ。
行為が1つかどうかというのは、例えばそこにある新聞をとってくる行為を
①立ち上がり、②新聞のところまで歩き、③新聞を持ち上げ、④元居たところに帰ってくる、というように切り分けられるかという話よね。
でも、時間的に連続した流れの中で体当たりをして、押さえつけている間に石で殴った行為を、あえて1つかどうかと、大々的に問題にする必要はあるのかしら?
むしろ甲と乙との間で認識が違ったことを、共謀の範囲とかの問題として処理するのかなあと思ったんだけど・・・」
どうもよくわからないけど、書いてまずそうなことはないかな、と思い、先に進むことにした。
「次は正当防衛の検討か。まあ、これは要件に当てはめればいいわよね。よしよし、読みにくいけどとりあえずあてはめてるわね。そして過剰防衛に落ち着くと」
玲子は何とか理解できると思ってまたほっとして読んだ。
「正当防衛は、自分の身を守るためにやったということで、罪に問われなくなるわね、でも身を守るためであっても、相手が殴り掛かるところ、こっちがピストルを使うのは均衡を欠くからだめだということね。その場合は、過剰防衛ということで、罪に問われることになるわね」
そんな独り言を言いながら、読んでいると
「あーだめねえ。なんでこんな書き方になるのよ」
答案では、①甲と乙、それと被害者の体格、②石の重さを問題文から写していた。
「過剰防衛ってのは『やりすぎ』ってことでしょ。それなら、やりすぎであることを書かないとだめじゃない。
まず一人に対して二人でかかっていくことがすでにやりすぎといえるでしょ!それに石っていう道具を使うこと自体がもうやりすぎじゃない。しかもそれを使って頭を殴るなんて!
こういう事実を拾って評価するのは常識よ常識!小学生でもできるわ」
こうして、収まった気持ちはまた、元に戻りつつあるのだった。